男性の包皮切除手術である割礼は、誰もが知る世界最古かつ最も広範に行われてきた外科的処置の一つです。その起源は紀元前6000年頃の古代エジプトに遡り、さらには旧石器時代までさかのぼるとの証拠も存在します。ユダヤ教やイスラム教など多くの宗教において、男性の割礼は重要な宗教儀式として位置付けられています。
アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国、アフリカ諸国などでは、新生児期や成人期に文化的・宗教的儀礼として実施されることが一般的です。現代では包茎治療やHIV・HPVなどの性感染症予防を目的とした医療行為として行われるケースが増加しています。
しかし女性器切除(FGM)に関しては状況が全く異なります。これは女性の性器の一部または全部を切除する危険で有害な慣習であり、重大な人権侵害行為に該当します。
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女性器切除(FGM)とは?
世界保健機関(WHO)の定義によれば、FGMとは「医学的必要性のない状態で女性外性器の一部/全部を切除する、あるいは女性生殖器に損傷を与える全ての行為」を指します。主に乳幼児期から思春期までの少女に対して行われますが、成人女性が対象となるケースも存在します。
通常、医療訓練を受けていない伝統的施術者が麻酔や消毒措置なしに実施します。家族が少女を押さえつける中、剃刀やガラス片・ナイフで性器を切断する事例が多く、極端な場合には外陰部を縫合し排尿・月経用の小さな穴だけを残す「閉鎖処置」が行われます。
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WHOはFGMを4種類に分類しています:
- タイプ1:陰核包皮・陰核頭の切除(エジプト・ナイジェリア南部で最多)
- タイプ2:陰核頭・陰核包皮に加え小陰唇の一部切除(大陰唇切除を伴う場合も)
- タイプ3:インフィブレーションと呼ばれる閉鎖処置(ジブチ・エリトリア・エチオピア・ソマリア・スーダン等東北アフリカで主流)
- タイプ4:穿刺・焼灼・掻爬などその他の有害行為(インドネシアや東・南部アフリカ地域で実施)
FGMの歴史と現状
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FGMの慣習は2000年以上の歴史を持ち、その起源はやや不明確です。アフリカの家父長制社会や文化で発生したと考えられており、伝統的な社会的慣行と見なされていました。FGMは女性の性をコントロールする手段として、婚前の貞操と婚後の忠誠を促すものとされ、女性の「純潔・美・名誉」を保つ方法と見なされていました。
紀元前2世紀には既に、ギリシャの地理学者が紅海東岸沿いで少女や若い女性に割礼が行われていることを記録しています。紀元前5世紀のエジプトのミイラからもこの慣習の痕跡が確認されています。興味深いことに、現在スーダンでは「ファラオの割礼」、エジプトでは「スーダン式割礼」と呼ばれています。
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FGMは特に赤道アフリカの遊牧民社会で、女性のレイプ防止策として始まったとする説もあります。研究によれば、FGMは大西洋奴隷貿易(1400-1900年)と関連していた可能性があります。この時期、アフリカ人女性はイスラム圏の中東に奴隷として売られており、処女性を保証するためにFGMが行われ、奴隷としての価値を高めていました。
現在もFGMは世界中で広く実施されており、特にアフリカ諸国で継続されています。移民の影響で他の地域にも拡大し、多くの文化で慣習が根強く残っています。
2020年のグローバルレポートによると、31カ国で推定230万人の15-49歳の女性・少女がFGMを受けており、このうち144万人がアフリカ、800万人がアジア、600万人が中東に居住しています。現在も年間300-400万人の少女に実施されています。
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FGMの危険性
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FGMには健康上の利点は全くなく、女性や少女に数多くの深刻な影響を及ぼします。その危害の程度は施術の種類と深刻さによって異なります。FGMは女性器を損傷するだけでなく、身体的・精神的な健康全般に影響を及ぼします。
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短期的な合併症:
- 激しい痛みと出血
- 組織の腫脹
- 感染症(破傷風など)
- 排尿困難
- 創傷治癒の合併症
- 周囲の生殖器組織の永久的損傷
長期的な合併症:
- 排尿時の痛み
- 慢性の膣および尿路感染症
- 月経トラブル
- 瘢痕やケロイド形成
- 性交痛
- 性的満足度の低下
- 分娩時の合併症(遷延分娩・過剰出血・帝王切開必要性など)
- 新生児死亡率の上昇
- 不安や抑うつなどの心理的問題
ワルダ・ハッサン・マフムード(上記写真)はFGMの生存者です。6歳でこの慣習を強いられ、「人生で最も痛みを伴う経験だった」と語ります。「トラウマは消えることがありません。だからこそFGM廃絶と危険性の啓発に取り組んでいます」
国際的には、FGMは女性と女児の重大な人権侵害と認識されています。これはジェンダー不平等と女性への極端な差別が根深く表れた慣習です。
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FGM廃絶に向けた世界的取り組み
2008年、世界保健総会はFGM廃絶を求める決議(WHA61.16)を採択。保健・教育・司法・女性問題など全ての分野での連携を強調しました。
ユニセフと国連人口基金(UNFPA)はFGM廃絶に向け最大規模の国際プログラムを主導。2008年から30年計画で、政府や地域社会と連携し教育と法整備による廃絶を推進しています。
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このプログラムはFGMの有害性啓発、社会規範の転換、法執行強化を目的とし、生存者への医療・心理的ケアも提供しています。
ユニセフ2024年報告書によると、13か国がFGM禁止法を制定し600万人以上の女性・女児が予防・保護・治療サービスを利用。15か国では約4500万人がFGM廃絶を公約しています。
改善ペースは加速しており、過去10年で成果の半数を達成。ケニア、シエラレオネ、エジプトではFGM実施率が急減しています。
しかし人口増加に改善速度が追いつかず、2030年までに廃絶するには現在の27倍のスピードが必要と指摘されています。
結び:女性の権利尊重と未来の保護
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