俳優の世界では、さまざまな演技学派が異なる俳優によって採用されています。
「表現主義」学派に固執する者もいれば、俳優がキャラクターと一体化すべきだと主張する「体験派」学派も存在します。後者は「演技」の作為性を排除した真実味を提供しますが、俳優に多大な負担を強いる方法です。
さらに「メソッド演技」学派は、誰もが「感情の記憶」を持っているという考えに基づいています。例えば愛する人を失ったシーンで泣く必要がある場合、俳優は実際の経験がなくても類似の感情を呼び起こすことが可能だとされます。 
クリスチャン・ベールのような「変身の達人」は役作りのために大幅な体重増減を行いますが、バットマン役で架空のキャラクターに本当になれるかは議論の余地があります。
（クリスチャン・ベールの役作りのための肉体改造）
ハリウッドでは数十年にわたりマーロン・ブランド、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロらメソッド俳優が主流でした。しかし近年、キャラクターに没入しすぎる俳優の奇行が問題視されるようになっています。
- 故マーロン・ブランド
- アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン
- マシュー・マコノヒー、キリアン・マーフィー
- アンドリュー・ガーフィールドなど新世代
初期のメソッド俳優は「プロ意識」と称賛されました。ロバート・デ・ニーロが『タクシードライバー』で実際にタクシー運転手を体験したように。しかしダニエル・デイ＝ルイスはこれを極限まで推し進め、撮影中も車椅子生活を強制するなど過激な方法で知られています。
（タクシードライバー）
1999年、ジム・キャリーは『マン・オン・ザ・ムーン』で4ヶ月間キャラクターを演じ続け、スタッフを困惑させました。マーティン・フリーマンはこの行為を「自己陶酔的でナルシスト的」と痛烈に批判しています。
（マン・オン・ザ・ムーン）
メソッド演技の弊害は俳優自身にも及びました。ヒース・レジャーはジョーカー役の準備で精神を病み、睡眠薬依存症で命を落とす悲劇を招きました。ジャレッド・レトは『スーサイド・スクワッド』で共演者に死んだネズミを送るなど行き過ぎた行為が問題視されました。
（ジャレッド・レトの奇行）
近年ではマッツ・ミケルセンがメソッド演技を「ナンセンス」と切り捨て、ロバート・パティンソンも「嫌な役だけメソッドを使う」と皮肉りました。ナタリー・ポートマンは「女性にはそんな余裕がない」と現実的な見解を示しています。
（ポートマンのインタビュー）
役作りの探究はプロ意識の表れですが、行き過ぎたメソッド演技が周囲を巻き込む正当化理由にはなりえません。俳優という職業の本質を問い直す時期が来ているのかもしれません。
