トルコ料理が「世界三大料理」に数えられる理由
世界には「三大料理」という通説がある。名高い中華料理と並び称されるのが、フランス料理とトルコ料理だ。フランス料理の優雅さは世界的に知られるが、トルコ料理はなぜこれと肩を並べるほどの地位を築いたのか？
地中海の恵み
「山に生きる者は山を食べ、海に生きる者は海を食べる」という言葉がある。ユーラシアの十字路に位置するトルコは三方を地中海と黒海に囲まれ、この地理的条件が食文化形成に重要な役割を果たした。歴史家フェルナン・ブローデルは著書『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界』で、小麦・オリーブオイル・ワインを地中海の「三種の神器」と称する。これがトルコ料理の基盤となっている。
中世以前、イスタンブールを含む現在のトルコの大部分はビザンツ帝国領だった。当時の主食は大麦と小麦で、粉に挽いてパンに加工されていた。ライ麦や燕麦が普及するのは10世紀以降のこと。今日でもトルコの食卓にはビザンツの影響が色濃く残り、ピタパンなどの平焼きパンが日常的に食べられている。 
パンとオリーブオイルの役割
中国などで主食として重要な位置を占める米は、トルコでは異なる扱いを受ける。トルコ人も米を食すが、通常は油で炒めた玉ねぎとトマト、塩を加え少量の湯で炊き、羊肉の煮込みと共に提供される。単独の主食としてではなく、あくまで付け合わせの位置付けだ。
地中海第二の宝物であるオリーブオイルもトルコ料理に欠かせない。ビザンツ帝国時代からオリーブとその油が主要な脂肪源であり、オスマン朝トルコでもこの伝統が継承された。高品質のオリーブオイルをたっぷり使った料理が多く、サツマイモ・キュウリ・玉ねぎ・ピーマン・黒オリーブなど新鮮な野菜を使った「サラト」のようなサラダには、たっぷりのオリーブオイルがかけられる。
鍵となる食材：ナス
地中海料理の定番食材であるナスもトルコ料理に頻繁に登場する。「クンピル」（焼きナス）はオリーブオイルで揚げたナスに炒め玉ねぎ・ニンニク・トマトを詰めた料理で、トルコでは「イマーム・バユルドゥ（イマームが気絶した）」というユニークな別名を持つ。伝説によれば、イマーム（イスラム教導師）が嫁入り道具として受け取った高級オリーブオイル12瓶を、妻がナス料理に使い切ってしまい、その浪費ぶりに驚いたイマームが気を失ったという逸話に由来する。
地中海の「三種の神器」はギリシャ・イタリア・スペインなどにも共通するが、トルコが東西文明の接点に位置する地理的条件により、その味わいはより豊かで多様なエキゾチックな特徴を備えている。
東西文化の影響
トルコは古来より交易と文化の十字路として機能し、特にシルクロードの中継点として重要な役割を果たしてきた。例えば茶文化は中国から伝来したものだ。元来コーヒーに親しんでいたトルコ人だが、茶の手頃な価格と入手しやすさから国民的人気を博し、やがてコーヒーを凌ぐ地位を確立した。興味深いことに、寒冷地向きとされる紅茶を熱く甘くして飲む習慣が根付いている。
オスマン帝国の遺産
現代トルコ料理の基盤はオスマン帝国の食文化に由来する。広大で多民族・多文化が混在したオスマン帝国は東西の要素を融合させたため、トルコ料理は非常にバラエティに富んでいる。オスマン支配層はトルコ語とペルシャ語を話すムスリム（イスラム教徒）で、ビザンツの食文化を多く継承していた。
オスマン帝国の中核地域であるアナトリア半島とバルカン半島は多様な地形を有し、帝国の厨房に豊富な食材を供給した。発達した交易路により南アジアや東南アジアの香辛料が入手可能となり、宮廷では数多くの新たな料理が生み出された。
地域ごとに異なるトルコ料理
中国に八大料理があるように、トルコも地域によって料理が大きく異なる。沿岸部では魚介類や野菜料理が中心（特にエーゲ海地方）、黒海沿岸では魚とトウモロコシ料理が有名だ。エーゲ海地方ではオリーブオイルを多用するなど、肉料理中心のケバブ文化とは一線を画す。
以下に、トルコの多様で豊かな食文化を代表する料理を紹介する：
ケバブ
トルコを代表する料理ケバブは、中東全域に広がる肉の直火焼き文化の一部。肉を焼く調理法は3000年以上前のミノア文明に遡る。トルコ風ケバブはひき肉・揚げ物・煮込みなど多様なバリエーションがあり、様々なスパイスと共に供される。
マンティ
中国の餃子に似た小型の小麦粉製食品で、肉とスパイスを詰める。モンゴル帝国からシルクロードを経て伝来し、トルコ風にアレンジされてヨーグルトを添えるようになったと考えられている。
ドルマ
ブドウの葉などで具材を包む東地中海伝統料理。「詰め物」を意味するドルマは、米・スパイス・各種具材をブドウの葉で包んだ料理。
ラフマジュン
トルコ風ピザと呼ばれる薄いパン生地にひき肉・野菜・スパイスを乗せて焼いた料理。イタリアのピザと異なり、基本的にチーズは使用しない。
ロクム
「トルコ風ゼリー」とも称される菓子。ジェル状の生地にナッツを混ぜ、ローズウォーターやオレンジブロッサムで香り付け。18世紀のオスマン帝国宮廷で生まれたとされる。
バクラヴァ
薄いパイ生地を何層にも重ね、ナッツを挟みシロップを浸み込ませた甘味。オスマン帝国発祥とされ、現代でも最も愛されるトルコ菓子のひとつ。
