アルツハイマー病のリスク要因について考えるとき、多くの人が認知活動を必要とする職業に注目します。医師や研究者など高ストレスな職業がアルツハイマー病リスクを低下させると考える人は少なくありません。しかし、ハーバード大学医学部の新たな研究がこの常識に異を唱えています。タクシーや救急車の運転手がアルツハイマー病による死亡率が最も低いという驚きの研究結果が発表されたのです。
ハーバード研究が明かす認知症リスク
2024年12月、ハーバード大学医学部の研究チームが英国医師会雑誌(BMJ)で発表した研究では、443種の職業に従事する900万人の死亡データを分析。その結果、タクシーや救急車の運転手がアルツハイマー病による死亡率が最も低い(タクシー1.03%、救急車0.91%)という驚きの結果が明らかになりました。

研究データのスクリーンショット
空間ナビゲーションが脳を守る
この驚くべき結果のカギは「空間ナビゲーション能力」にあります。タクシー運転手は常に最適なルートを判断し、予測不可能な交通状況に対処する必要があります。このような複雑な空間認知能力が、海馬(記憶を司る脳領域)の神経細胞を活性化させることが研究で明らかになっています。ロンドンのタクシー運転手を対象とした研究では、ベテラン運転手の海馬が一般の人よりも物理的に大きいことが確認されています。

運転職種による認知症リスクの差
路線バスの運転手やパイロットのアルツハイマー病死亡率(3.11%、4.57%)と比較すると、タクシー運転手のリスクがいかに低いかが分かります。この差は、ルーティン業務と非ルーティン業務の差に起因すると考えられています。決まったルートを運転するバス運転手と違い、タクシー運転手は常に新しい状況への適応を求められるからです。

認知予備力が認知症を防ぐ
ロンドン大学の研究によると、タクシー運転手の脳では海馬の神経細胞が増加していることが確認されています。この神経可塑性が認知予備力を高め、アルツハイマー病の進行を遅らせると考えられています。認知予備力とは、脳の柔軟性と回復力を指す概念で、脳卒中後の回復力とも関連しています。

40代から始める認知症予防
アルツハイマー病は、記憶障害から始まり、徐々に日常生活に支障を来す進行性の疾患です。最近の研究では、症状が現れる11~15年前から脳の変化が始まることが分かっています。特に内側側頭葉の萎縮が早期から観察され、記憶障害の前兆となります。

認知症予防の7つの柱
中国が2024年に発表した「アルツハイマー病早期予防ガイドライン」では、次の7つの予防法が推奨されています。
- 社会参加と前向きな姿勢
社会活動への参加は認知機能の維持に有効です。ボランティア活動や趣味のサークルへの参加が効果的です。

- 生涯学習の実践
新しい言語の習得や楽器の演奏など、新しいスキルの習得が神経細胞の新生を促します。オンライン講座の活用も効果的です。 - 定期的な運動習慣
週3回の有酸素運動(速歩きなど)が脳の血流を改善します。筋トレとの組み合わせが効果的です。

- 生活習慣の改善
喫煙や過度の飲酒を避け、7時間の質の良い睡眠を心がけます。睡眠時無呼吸症候群の治療も重要です。 - バランスの取れた食事
地中海式食事法(魚・オリーブオイル・ナッツ中心)が認知機能の維持に有効です。抗酸化物質が豊富なベリー類の摂取も推奨されます。

- 生活習慣病の管理
高血圧や糖尿病は認知症リスクを2倍に高めます。定期的な健康診断と適切な体重管理が重要です。
認知症予防の新常識
タクシー運転手の研究から学ぶ最大の教訓は、「脳の柔軟性を保つこと」の重要性です。日常に新しい刺激を取り入れ、常に認知的な挑戦を続けることが、認知症予防の鍵となります。認知症予防は40代からの対策が肝心です。今日から始める小さな変化が、将来の脳の健康を守ります。